体を構成する細胞とは何なのか?

細胞

私たちの体には、生命を維持するために必要不可欠な約200種類、37兆個の細胞が存在します。
これらの細胞は、たとえば、心臓を動かしたり、血液をつくったり、新しい皮膚の細胞をつくったり、脳を活性化したりなど、数多くの働きを担っており、すべての組織や臓器の構成を行っています。

また、これらの細胞にはそれぞれ一つひとつに寿命があり、寿命を迎えた細胞は失われ、その代わりに新たな細胞が生み出されます。
体内ではそのような行いが日々繰り返されています。
ということは、失われていく細胞の代わりになる新しく、若い細胞がつくり出されるのです。

それぞれの細胞のルーツは幹細胞にある

とはいえ、それらの細胞はどこで生まれているのでしょうか?

そのきっかけとなるのが「幹細胞」です。
幹細胞にはこれらの細胞をつくるという重要な役割があります。つまり、幹細胞はあらゆる細胞の母といえるのです。

幹細胞

幹細胞は細胞分裂するときに、同じ能力をもった幹細胞になることが可能。
また、別の細胞になることだってできます。たとえば、皮膚幹細胞は皮膚をつくる細胞を生み出すことや、メラニンという皮膚色素をつくる皮膚細胞へ分化することも。
けれども、どの細胞になるのかは決してランダムというわけではありません。

その役割分担は、細胞が分裂する過程で決まっていきます。

細胞分裂

私たちの体を形成する細胞は、元を辿ってみると、卵子と精子によってつくられた受精卵という細胞に帰着
このたった一つの細胞が分裂をくり返すことで、すべての細胞の誕生へとつながっていきます。

その分裂が進んでいく中で、どんな役割をもった細胞になるのかが決定。血液になるもの、骨になるもの、神経になるもの、筋肉になるものなど。
そして、それに適合するための構造や機能に変化していくというのが、細胞分裂のプロセスです。

全身

ちなみに、幹細胞の“幹”とは、物事の中心であり、「始まり」ということを意味します。
つまり、幹細胞はこれから何かになっていく「始まりの細胞」です。

体のどこにでも存在し、各臓器や皮膚、血液などの組織をつくり出す細胞、それが幹細胞の正体になります。

幹細胞の性質は「コピーと変化」

そんな幹細胞には2つの性質があります。1つ目は、分裂して自分と全く同じ細胞をコピーする能力である「自己複製能」です。

それによって、各組織に存在する幹細胞を維持することを可能にします。
もう1つは、自分とは別の様々な細胞へ分化(変化)する能力です。そのことを「多分化能」といいます。

たとえば、病気やケガで組織がダメージを受けて損傷しても、幹細胞によって新しい細胞が生み出されるため、その組織は再生できるのです。

再生

「分裂」が自分と同じ細胞に分かれることに対して、「分化」とは幹細胞が他の役割をもつ細胞に変化するということ。
つまり、幹細胞は分裂と分化を行い、自分自身と同じ幹細胞と、他の細胞を同時につくっていきます。そのため、幹細胞自体がなくなってしまうことはありません。

とはいっても、分化してつくり出すことのできる細胞のレパートリーはある程度は決まっています。

たとえば、後ほど説明する「体性幹細胞」の場合、細胞が分化できるレパートリーや、増えることが可能範囲もそれと同様。
その理由として、組織や臓器で補充できる細胞の種類や数が決められているのは、細胞が増えすぎてしまうと、がんや良性腫瘍が発生してしまうからです。

あらゆる細胞へと分化する2つの“人工”幹細胞

また、多分化能にフォーカスを当ててみると、その能力は幹細胞の種類によってそれぞれ異なります。
大きく分けると種類は3つ。

全能性と万能性、多能性に分類ができます。
全能性の幹細胞とは、体を形成するすべての細胞に分化する能力をもっている受精卵です。

受精卵

とても小さな受精卵から赤ちゃんへと成長できるのも、この全能性の幹細胞だけに秘められた力のおかげといえます。

また、万能性の幹細胞にはいくつかの種類がありますが、その中に含まれるiPS細胞のことをご存知という方は多いかもしれません。
他にはES細胞です。

しかし、iPS細胞とES細胞は万能性であるとはいえ、人工的につくられた幹細胞。
人の体から採取した細胞を臓器や組織細胞として成長させるというメカニズムになっています。

iPS細胞【iPS cell (induced pluripotent stem cell)】

皮膚などの細胞に数種類の遺伝子を加えることで、様々な細胞に分化できる能力を備えた幹細胞のことです。

IPS細胞

私たちの体は、もともと1つの受精卵でしたが、成長するにつれて体内の細胞数は増え、大人になると約300種類の細胞にまで増えます。
その中で、それらの細胞は受精卵から派生しているため、同じ遺伝子情報をもっているのですが、その情報の読み方は細胞によって様々。

たとえば、皮膚の細胞が血液をつくったり、血液の細胞が神経の働きをもったりすることはありません。

iPS細胞は、そんな皮膚などの細胞に特定の遺伝子を加え、様々な細胞に変化できる多能性をもたせた細胞といえます。

ES細胞【ES cell (Embryonic Stem Cell)】

その細胞は胚性幹細胞とも呼ばれています。

受精卵が数回分裂して100個ほどの細胞集団である胚(胚盤胞)から、将来赤ちゃんになる細胞を取り出して培養してつくられるES細胞。
あらゆる細胞に分化できる多能性をもった細胞です。

ES細胞

iPS細胞よりも前から研究が続けられてきました。
1981年にイギリスのマーティン・エヴァンス(Martin John Evans)がマウスのES細胞を発見したのが始まり。
1998年にはアメリカのジェームズ・トムソン(James Thomson)が人間のES細胞の樹立に成功しました。

万能性のこれら2つの幹細胞はシャーレの中で様々な細胞に変化させることができるため、再生医療への応用が期待されています。
とはいえ、人工的であるが故に倫理的な問題が存在。また、移植後の拒絶反応やがん化するリスクも含まれています。そのため、医療への実用化には多くのハードルがあるといえるのです。

体性幹細胞に属する数々の幹細胞

さらに、先ほど紹介した「体性幹細胞」は、体内でダメージを受けて損傷したところへ向かい、そこで分裂・分化をくり返して組織や臓器を修復。
機能を再生させて元の状態へと導いてくれる幹細胞です。

このことを「ホーミング効果」といい、幹細胞がもつ性質でもあります。
私たちの体内にある細胞は、通常それぞれが役割に応じて様々な構造や機能をもっており、これらの細胞は同じ細胞にしか分裂することができません。

一方、体性幹細胞は体内に存在するいくつもの組織や臓器からの要求に対していろんな種類の細胞をつくり出すことが可能です。

たとえば、この体性幹細胞に属する造血幹細胞は、血液をつくり続けます。他にも、神経をつくる神経幹細胞や皮膚をつくる上皮幹細胞なども、この体性幹細胞の一つです。
このように役割が決まっている幹細胞は、いわば単能性ともいえます。

その後、この体性幹細胞の中で、多能性をもつ幹細胞が骨髄で発見されました。

それが「間葉系幹細胞」です。
間葉系幹細胞は神経や筋肉、脂肪などの組織、骨髄や肝臓などの臓器に存在する未分化の細胞で、様々な細胞に分化できる能力をもっています。

つまり、iPS細胞とES細胞のように様々な細胞に分化できるのです。
けれども万能性の幹細胞ではないため、何にでも分化できるというわけではありません。そこがiPS細胞とES細胞との違いの一つです。

この間葉系幹細胞は、様々な細胞に変化することができますが、骨髄の間葉系幹細胞は多くが血液をつくる細胞に分化してしまいます。
しかし、その課題はある組織から発見された間葉系幹細胞によって解決されました。

それは脂肪組織です。

脂肪組織にも間葉系幹細胞が豊富に含まれていることが明らかにされています。

間葉系幹細胞への期待

脂肪由来の間葉系幹細胞は、もちろん血液をつくる細胞や免疫を担当する細胞に変化することもありますが、血管や心筋、骨、脂肪などの細胞へ分化する多分化能も備えているのです。
また、骨髄由来と比べると、増殖力も高いことが報告されています。

体性幹細胞の一つひとつは、万能性の幹細胞であるiPS細胞やES細胞のように、脳や神経、皮膚、脂肪、血管、腎臓、胃、骨などのすべてに分化できる能力はもってはいませんが、決められた多種類の細胞には分化することができ、様々な細胞をつくり出すことが可能です。

このように幹細胞は、体内の組織や臓器をつくり出すための細胞を生み、それらを維持するという役割をもっています。
私たちの“生きる”を支えている存在、それが幹細胞といえるのです。


最近の記事 おすすめ記事
  1. 登録されている記事はございません。
  1. 登録されている記事はございません。

カテゴリー

  • カテゴリーなし
アーカイブ
PAGE TOP