3つの「幹細胞」

幹細胞

現在、再生医療において注目されている幹細胞。私たちの体内のあらゆる場所に存在しています。

幹細胞は主に3つ。いくつかの異なった組織や臓器になれる能力をもつ「体性幹細胞」、受精卵から培養してつくられる「ES細胞」、そして、細胞に特定の遺伝子を人工的に加えて生み出される「iPS細胞」があります。

その中の体性幹細胞は、私たちの体に存在する細胞です。そのため、ES細胞やiPS細胞と比較しても、安全性が高い。一方、ES細胞やiPS細胞は、細胞に遺伝子を加えて人工的につくられる多能性の幹細胞であるため、がん化などのリスクも懸念されています。

体性幹細胞にはいくつか種類があり、血液をつくる「造血幹細胞」や、骨や筋肉、脂肪などを様々な組織や臓器をつくる細胞へ分化する能力がある「間葉系幹細胞」などです。

いくつもの細胞に変化が可能な脂肪由来の幹細胞

間葉系幹細胞のはじまりは、1970年代に骨髄の中で間葉系幹細胞が発見されたことです。骨髄由来の間葉系幹細胞の実用化に向け、数多くの臨床研究が進められてきました。

しかし、骨髄由来の間葉系幹細胞には採取が可能な量が限られているという課題があったのです。

培養

その後、2001年に骨髄より多くの幹細胞を確保できる「脂肪由来」の間葉系幹細胞が発見されました。
これをきっかけに骨や神経、脂肪細胞に分化できることも明らかとなり、骨や神経や心筋などを再びつくり出す再生医療に応用する研究が重ねられてきたのです。

間葉系幹細胞は、幼児期にたくさん存在します。しかし、年齢を重ねるにつれてその数は減少。年齢によって数に違いはありますが、誰もがもっているため、たとえば、骨髄や脂肪から間葉系幹細胞を採取して培養し、目的の細胞に分化させることで再生医療の新材料として活用されています。

これまでの課題を解決した脂肪由来

そもそも脂肪由来の間葉系幹細胞が存在する脂肪組織は、単なるエネルギーの貯蔵庫と考えられていました。
けれども、脂肪組織には、様々な生理活性物質を産生・放出する内分泌器官であること、また、多能性幹細胞が存在することなど、とても魅力ある組織だといえます。

脂肪由来の間葉系幹細胞は再生医療において必要不可欠な存在です。

私たちの体内に存在する皮下脂肪の組織には、骨や軟骨、脂肪細胞になることができる間葉系幹細胞が存在します。
脂肪由来の間葉系幹細胞は、皮下脂肪から簡単に採取することができ、少量の脂肪から豊富に間葉系幹細胞を得ることが可能なのです。

サイトカイン療法 美容

従来、脂肪を体内から取り出すといえば、美容目的で普及していた脂肪吸引が有名かもしれません。しかし、吸引した脂肪は廃棄されていましたが、そこには間葉系幹細胞が豊富に含まれているということが、後の研究で明らかになったのです。

間葉系幹細胞がもつ性質とは

脂肪由来だけでなく、すべての間葉系幹細胞には2つの特性があります。
「自己複製能」と「多分化能」です。

自己複製能とは、自らと同じ幹細胞へと増殖する能力。幹細胞は分裂をくり返すことで、自分と同様の形と能力をもつ別の細胞をつくり出すことができます。

細胞

もう1つが、他の組織細胞に変化できる多分化能です。
たとえば、脂肪由来の間葉系幹細胞は同じ幹細胞だけでなく、体が必要としている様々な組織細胞に変化することも可能。骨細胞や心筋細胞、軟骨細胞、神経細胞、血管内皮細胞などです。

また、間葉系幹細胞には魅力的な性質があります。加齢や病気、ケガなどで失われた細胞を新しく補って修復するのです。間葉系幹細胞は血管やリンパ管を移動し、修復が必要な部位へ移動します。そのことを「ホーミング効果」といい、ダメージを受けた部位を修復・再生してくれるという性質です。

あらゆる治療に活用される脂肪由来の可能性

現在では、その脂肪由来の間葉系幹細胞は再生医療で幅広く活用されています。

その一つが、幹細胞を培養することで分泌される「幹細胞培養上清液」です。
アンチエイジングに欠かせない成長因子や増殖因子などのサイトカインが豊富に含まれており、これは幹細胞を培養することでしかつくり出すことができません。

培養上清液

サイトカインは、体内に存在する様々な細胞を活性化し、増殖や分化を促進してくれます。それによって、あらゆる細胞が若返り、体内の組織や臓器、機能などが徐々に修復・再生することでアンチエイジングにつながるのです。

脂肪由来の特長は、骨髄由来の細胞よりも増殖力や細胞活性力が高いこと。また、脂肪組織由来の間葉系幹細胞は未分化状態を保ったまま増殖・分化することが可能です。
つまり、骨芽細胞や軟骨細胞、神経細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞など様々な細胞へと変化できる可能性があることになります。

他にも、脂肪由来の間葉系幹細胞は、糖尿病や脳梗塞、心筋梗塞、肝機能障害、腎機能障害、アレルギーなど、様々な病気に対しての治療として世界中で活用されています。
脂肪由来の間葉系幹細胞は、今後の再生医療にとっての重要なファクターなのです。


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