母親と赤ちゃんをつなぐ重要な存在
幹細胞によってつくり出される培養上清液には、脂肪由来以外にも最近注目されているものがあります。それは「臍帯由来」です。
臍帯とは、へその緒のこと。赤ちゃんの成長に必要な血液などをつくっている場所です。
また、へその緒はアンビリカル・ケーブルと呼ばれ、「命綱」という意味があります。つまり、臍帯は母親と赤ちゃんをつなぐという重要な役割があるのです。
臍帯から採取できる血液「臍帯血」は、出産直後の一度しか採取することができません。そもそも母親の血液は、胎盤を介して赤ちゃんに酸素や栄養を供給します。
また、老廃物を取り除くという働きも。胎盤は臍帯によって赤ちゃんとつながっており、出産と同時に子宮から出されます。この臍帯で守られている血液が臍帯血です。
改めて、臍帯と赤ちゃんの関係性を見てみると、赤ちゃんは羊水の中で成長し、臍帯を通じて、母親の血液から酸素や栄養を受け取ります。また、臍帯には太い静脈が1本と細い動脈が2本ある。その静脈には二酸化炭素や老廃物を母親の血液に送るという、生きていくうえで欠かせない大切な役割があります。
豊富な造血幹細胞を含む臍帯血
臍帯血は、臍帯内の血管にある血液で、赤ちゃんの血液そのものです。この臍帯血は赤血球、白血球、血小板などの血液細胞をつくる「造血幹細胞」を豊富に含んでいます。
その臍帯血の採取方法はこうです。
赤ちゃんが生まれ、胎盤がまだ子宮の中にある状態で、臍帯に針を刺して採取。
70~80ccの臍帯血の採取が可能とされています。母親や赤ちゃんの負担にならずに採取できる臍帯血は、細胞が若いため増殖力や適応力がとても高いのです。
私たちの体内にはたくさんの幹細胞がありますが、幹細胞のはじまりとされる骨髄由来にも、造血幹細胞をはじめ、赤芽球など若い細胞が存在。
骨髄由来の幹細胞を移植するという選択肢は再生医療において、大きな可能性を秘めています。
たとえば、幹細胞移植の場合、血液幹細胞が壊れている再生不良性貧血症や白血病などの造血幹細胞が著しく減少した患者に対しては、健康な人の骨髄移植を行う治療が主流でした。
しかし、ドナーへの負担が大きく、他人の骨髄移植では副作用や拒絶反応が起こりやすいのです。
そこで、まだ細胞が発達していない臍帯血を輸血という形で移植する試みが行われることに。臍帯血には豊富に造血幹細胞が含まれ、また、臍帯血は長期間冷凍保存することができるため、再生不良性や白血病などになった時に使用することが可能です。
現在、臍帯血の幹細胞によって様々な臓器に存在する細胞を活性化し、病気やけが、老化の治療に利用する研究も進められています。
臍帯血は移植の選択肢を広げた
ここでは臍帯血移植の歴史を紹介します。
1982年に中畑龍俊氏が臍帯血の中に造血幹細胞があることを発見したのが始まりです。
1988 年にはフランスのグルックマンが兄弟間の臍帯血移植を行いました。日本でも1994年、東海大学で初の臍帯血移植に成功。
これはグルックマンのケースと同じく兄弟間移植でした。
その後、1997 年には横浜市立大学で日本初の非血縁者間での移植が行われたのです。そして、厚生労働省が臍帯血移植検討会を設置。
1995年に日本初の臍帯血バンクである「神奈川臍帯血バンク」が設立されました。
臍帯血移植のメリットとしては、移植を受ける患者と臍帯血ドナーの抗原が完全に一致しなくてもよいということです。言い換えれば、臍帯血が保存されていれば、治療が必要になった時に提供できる可能性が高いといえます。造血幹細胞の供給源である臍帯血は、赤ちゃんだけでなく、移植を必要とする患者にとっても大切な存在なのです。
プラセンタ以上の再生力がある
そんな臍帯内に含まれる幹細胞も、脂肪由来同様に、増殖や分化などを繰り返すことで体内の組織や血液などを生成する役割を担っており、その幹細胞にはとても高い再生能力があります。
臍帯由来の培養上清液療法では、赤ちゃんの臍帯から採取した臍帯幹細胞を培養し、そこから分泌された増殖因子や成長因子であるサイトカインなどを使用。
サイトカインには体の組織や臓器などを形成する数多くの働きがあり、様々な効果を得ることが可能なのです。
特に、美容やアンチエイジングの分野で活用されています。
従来、美容やアンチエイジングで効果があるとされている成分には、コラーゲンやヒアルロン酸、プラセンタなどがあります。代表的な治療は注射や点滴、サプリメントです。
だた、母親の胎盤であるプラセンタを臍帯と比較すると、赤ちゃんの血液をつくる臍帯の方が、より再生能力が高いといえます。臍帯は赤ちゃんに酸素や栄養を含んだ血液を送り、老廃物や二酸化炭素を含んだ血液を母親に戻す存在。その中の臍帯血には、血液や血管をつくる造血幹細胞や、骨や筋肉や神経などの細胞になる様々な幹細胞が豊富に含まれています。
アンチエイジングを可能にする救世主に
最近は、その臍帯の再生能力を利用した新たな治療として、「臍帯由来」の幹細胞培養上清液療法が登場し、再生医療の注目の的に。
再生医療とは、自分の中にある力を引き出す医療のこと。幹細胞培養上清液療法は、再生機能をもつ幹細胞を利用する、まさに再生医療の救世主といえるのです。
誰もが避けることのできない老化現象。
たとえば、感覚や神経、骨や筋肉の衰え、免疫力の低下、また、皮膚や肌の質も落ちてしまいます。
このような変化の原因は、細胞の機能が老化すること。というのも、年齢を重ねることによって細胞の数は減少してしまうからです。
臍帯由来の幹細胞に秘められた能力を活用し、老化によって衰えた細胞を再生する。
そんな新しい治療が、体内の細胞の状態を巻き戻すことを可能にしました。自分の中で失った力を再び呼び起こすことは、若々しい体を手に入れる大きな一歩なのです。